踊ってから考える

エンターテインメント過剰摂取記録

『りさ子のガチ恋♡俳優沼』を観た。

※まあまあそこそこネタバレしてるよ!


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初演の感想ブログを読んで、気になって気になって、小説版を買って読んだのがまさにちょうど一年前。
ついに『りさ子のガチ恋♡俳優沼』の再演を観劇して来たぞ……! 



公式サイトはこちら。


過去に書いた小説版の感想はこちら。はちゃめちゃにネタバレしてます。



元々舞台(初演)→小説→舞台(再演)なので、再演が発表されてから生で観るのめちゃくちゃ楽しみにしてたんですけど、これはもうヤバい……概念が殴ってくるぞ……。
内容の解像度的には小説版の方が高い*1んですけど、生で役者が演じているのを観るのは文字で読むのとはまた違った恐さがあると言うか。
わたしはここ数年でちょいちょい2.5舞台も見に行くようになったんですけど、行く会場と言えばキャパ800以上のハコばかりで、今回シアターモリエール*2初めてだったんですが、会場がもうこの話の舞台になりそうなと言うかですね、キャパ180のハコにフラスタがずらっと並んでて、フラスタの宛名札に宛先の役者さんからの返信が貼ってあって、なんかもう「ここがりさ子の世界……!」感が凄い。
ライブも2.5舞台もハコが小さい方が客からのフラスタ凄いよね……って開演する前から感慨深くなったりする。


約180席の客席は完売、当日券もない盛況ぶり。
19時開演の予定だったんですが、その5分くらい前かな?りさ子とりさ子の観劇仲間のたまちゃん、アリスが劇場の扉から客席に普通に入ってきて、たまちゃんはキャリーケース引いてる*3わ、アリスはオタク特有の笑い方ではしゃいでるわで、現実と虚構の区別が非常に曖昧なまま暗転、劇中劇『政権☆伝説』の千秋楽カーテンコールから始まるわけですが、もうな、読むのと観るのじゃリアリティが違うんすわ……小説版では脳内で思い浮かべてるから「はいはい、あるある」なんだけど、舞台で観ると「えっ、これこないだアイアで観なかった……?」みたいになるから生は怖い。
終演後のハイタッチ会からの客側の打ち上げと俳優側の打ち上げ、主演俳優のツイッターに対するメンションとリプ、更にそれらに対する裏垢愚痴垢の吐き出し……なんかもう「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」としか言いようがなくて、最早これは哲学(なお開始15分)


ツイッターでの発言を表現するのに、表垢やリプ専*4垢はそのまま顔出し、裏垢愚痴垢での発言は青いペストマスクを被ることで表してて、判りやすいし上手い。
鳥モチーフってところからなんだろうけど、ペストマスクってところがまた……黒く染まって死んでいくんだ……心が……黒く……染まっ……



りさ子たちの打ち上げの中で同担がやり玉に挙がる。どこに住んでるのか、ツイッターのアイコンやプロフィール、劇場での様子まで。このやりとりのリアリティたるや……終演後、このやりとりを1回も見たことも聞いたこともしたこともないオタクはいません!!!って感じでぶっ刺さる。
対する俳優側の打ち上げもツイッターやインスタには写真しか上がってないけど、多分こういう感じでやってるんだろうなーって言うのがわかるし、アップされた画像に対して、愚痴垢で「打ち上げ会場また同じかよ、凸されるんじゃない?」「同じ料理でみんな飽きてそー」とか、さては『政権☆伝説』の運営、信用ないな?って言うところまでわかるし、わかってしまう……
運営がksだとな、表に立ってるもんの評判も下がるからな……?(これは某運営に対する私怨が過分に含まれています)


りさ子は会社では聞かれたら答えるけど、積極的に趣味を話すタイプではないので、会社内でのやりとりは割とこんなもんだろうなーと思いつつ、カラオケでの上映会はおまおれ過ぎて、無の顔で観てしまいましたよね。
ついこないだクローズ*5の7時間半上映会やったばかりですからね……



りさ子の推しの翔太くんのバーイベ以降がこの舞台のキモ部分なのはわかってはいるんですが、やっぱり舞台版でもりさ子の言い分には1mmも共感は出来ないんですけど、舞台版を観てると、と言うかあの愚痴垢裏垢での内容を耳で聞くと言ってる人の感情と言うか、なんかこう「別にガチ恋じゃないし、付き合いたいとも思ってないけど、やっぱりカノバレは不快」が感じ取れると言うか。


これはわたしの独断と偏見による勝手な解釈と言うか思い込みなんですけど、「マジでガチ恋じゃないし、付き合いたいとも付き合えるとも思ってないけど、カノバレが不快」な層って一定数いると思ってて、その層はカノバレが流出*6とかじゃなくて、正式な手段(婚約や結婚発表)であっても不快と言うかモヤるのは、実際にいる俳優をある意味二次元的に消費していて、ずっとその人生を原作として楽しんでいたのに、ある日突然オリキャラの夢二次創作を見せられた感じじゃないのかなーと。
いや、その人の人生だから、オリキャラじゃなくて新キャラなんですけど、隠していれば隠しているほど登場が唐突過ぎたり、自分の考える原作の雰囲気に合ってなかったりで、公式との解釈違いと言うか、オリキャラ感が凄いのではないかと。
現実はpixivと違って地雷避け出来ないしね!


本作で翔太くんやるるちゃんが「俳優側も人間」って言ってる通り、実際に生きている人間の人生を娯楽として消費していることは重々承知していても、対象が人間であるからこそガチ恋してしまう人もいるし、対象が人間なのに物語の登場人物として消費してしまう人もいるので、本当に人が人を見る趣味って言うのはバランスが難しいな……と舞台版でも改めて思わされました。


りさ子はお金の掛け方とかあんまりバランスの良いタイプではないから、バランスを崩すと一気に暴走するタイプなんだけど、このキャラクター設定が絶妙で、「これは私だ」と「私はここまでじゃない」の狭間に立っていて、それがなんとも言えない恐怖を煽ってくる。
この話はあくまで「りさ子」の話だし、劇中でも「ファンの中の特定の一個人の暴走」ってことになってるけど、りさ子もたまちゃんもアリスも翔太くんもるるちゃんも明確なモデルがいるわけじゃないのにめちゃくちゃ「ぽい」、まさに概念の存在だから、きっとこういうことが実際に起きても驚かないくらいのリアリティがあって、それがまためちゃくちゃ怖い。


りさ子役の新垣里沙の演技もめちゃくちゃ絶妙で、あんなに顔が小さくてスタイル抜群なのに、りさ子の時はマジこんなオタクおるわ…って言うガチ恋の概念になってて、「世界は早く役者の新垣里沙を見付けて?」って感じだし、逆に小説版では匂わせ彼女の概念でしかなかったるるちゃんが実体*7を持つことに寄って、憎めない人間味のある女の子になっていて、内容は知っていても、舞台には舞台の楽しみがあるなーって。
初演は観てないのであれなんですが、感想を見る限り翔太くんもキャス変してかなり印象が変わった様子。
あと萩野崇氏がTop of イケオジで最高が過ぎる。病み気味のイケオジ、だーい好き!(cv:ハズキルーペ武井咲)


なんでも自分の好きな界隈と比較するのは良くないなとは思いつつ、この『りさ子のガチ恋♡俳優沼』はヴィジュアル系で言うとゴールデンボンバーの「†ザ・V系っぽい曲†」みたいな愛と敬意はあるけど、毒も持った既存の型に対するカウンターカルチャーみたいな感じだと思っていて、こういう舞台が出て来ることで所謂2.5次元舞台もある意味分岐点に来ているのかなあ、と。



舞台版の結末は小説版と少し変わっていて、『りさ子のガチ恋♡俳優沼』のカーテンコールに「りさ子」だけ出て来なくて、カーテンコールの後に舞台で翔太役の柏木佑介さんと「りさ子」がすれ違う。
りさ子の「頑張ってください」に「ありがとう」と返して、上手に下がる柏木さん。

「佑介くん、尊い……」と呟いて、舞台から降り、シアターモリエールの扉から出て行く「りさ子」





こっわ……!
舞台版の演出でここが一番怖かった。

「りさ子」は誰でもないのに、誰でもあって、どこにもいないのに、どこにでもいる。



『りさ子のガチ恋♡俳優沼』はまさに哲学であり、間違いなくホラー。



深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだーー

*1:りさ子の視点以外にるるちゃんや若手俳優のあっきーの視点があるので、物語の輪郭が掴みやすい

*2:ヴィジュアル系界隈で言ったら多分池袋サイバーみたいな位置付けの匂いがする

*3:ロッカーに預けずにキャリー引いてる理由は小説版では説明あるけど舞台版ではなかった

*4:リプ専って言うけど、発言に対する最初のコメントはメンションでそれに対するのがリプじゃなかったっけ?って思わんこともない

*5:クローズとクローズIIはマジマジすっげーエモの洪水なんで是非観てください、エクスプロードは虚無なので誰かと観ないと青いペストマスク被ることになるぞ!

*6:流出だと危機管理がどうの的な別方向での批判が出来るから判断しづらい

*7:演:椎名歩美さん